正義のヒーロー アルティメX! #2
晴歴2010年。突如として侵略者が現れた。
キメラと呼ばれる黒い影の姿をした奴らは様々な物に取り付き、化け物と化して人々に襲いかかる。 警察や軍隊の奮闘むなしく、やつらは次々と日本各地を拠点としていった。日本は手に負えなくなり、恐怖のどん底へと追い込まれた。 そんな時に。立ちあがったのは民間企業だった。 大手総合電機会社である「初芝電工」がパワードスーツの製作に成功。 そのパワードスーツを着た民間対策部隊「HEROS」を設立しキメラ達を撃退したのだ。 それを皮きりに、競い合うように他の企業も各々にヒーローを生み出し、地域の警備に当たった。こうして増えていったヒーロー達は力を合わせ、市民を守る事を誓った。これを「HERO同盟」という。 そして時は晴歴2011年。新たなヒーローが流星のごとく誕生する。 これは、ヒーロー達と侵略者との動乱時代に新たに生まれたヒーローの物語である! 「ジャカジャーン♪ おしまぁい」 楽しそうに紙芝居をめくったのは茶髪の女性、新美哲子(にいみ てつこ)である。 「いや、おしまいって言われても……」 いきなり手作り紙芝居を見せられた勇吾は困り顔だった。 場所は変わらず、定食屋「空海亭」。 ヒーローにスカウトしたいと言われた勇吾は詳しく話を聞くために席を三人の所へ移すことにした。 勇吾が席に着くなり、正面に座っていた哲子はいそいそと鞄から白い厚紙で作られた紙芝居を取り出し、『犬でもわかるヒーローの歴史』なる寸劇を始めたのだ。哲子は「どお?」と言わんばかりにニコニコと勇吾を見ている。 ちなみに紙芝居の内容はなかなかに酷いものだった。クレヨンで書かれた絵は幼稚園児が書いたのではないかと思うほど破たんしていて、どこまでがキャラクターでどこからが背景なのか分からないほどだ。しかも、所々描き間違えたのか、上から無理やり塗りつぶして描いてある所もあり、絵だけでの内容の読解はもはや不可能と言える出来栄えである。 勇吾がなんとコメントしていいか考えを巡らしていると、左隣に座っているメガネの男、尾田英一(おだ えいいち)が助け舟を出すように、 「哲子さん、その紙芝居は子供向けに作った物なのですから、大山くんにはちょっと幼稚かと……。それに、大山くんはおそらくヒーローの事は知っていると思いますよ」 「ああ……、そっかー。ごめんねぇ、大山くん」 哲子はしょんぼりと頭を下げた。 「いえ。楽しかったですよ……紙芝居」 「ホント!? そう言ってくれたの大山くんだけだよぉ。 薫ちゃんと英ちゃんは見せても何も言ってくれなくてぇ。 この前、公園で子ども達に見せたら「絵がグチャグチャで何描いてあるか分んない。お姉さん絵下手だね」って言われちゃったんだぁ」 哲子は照れながらそう言った。子どもは時にして残酷である。 「あーもう。今は紙芝居の批評はどうだっていいのよ!」 社長および司令である木下薫(きのした かおる)は、哲子のゆるゆるトークに耐えきれず、机を叩いた。 「とりあえず、哲子! それしまいなさい」 「はーい……」 そう言って哲子は紙芝居をしまい始めた。紙芝居の最後にページには『正義は勝つ!』と赤く書かれた文字の下に黄色とオレンジのヒーローらしきものが右腕を天に上げていた。 薫いわく、哲子はすご腕のメカニックらしいが、この言動を見ると勇吾にはどうも疑わしかった。 「話を戻すけど、大山くんはスカウトの話どう考えてる?」 薫は長い髪を耳の後ろにかき上げながら聞いた。 「いや、ありがたい話なんですけど……。俺なんかがヒーローなんて……」 「いいえ大山くん、あなたが適任なのよ!」 薫は身を乗り出して言った。薫の顔が勇吾のすぐ目の前まで近づく、 「あなた、ヒーローに必要な三大条件って何だと思う? はい、5秒以内。5…4…3…」 「え? えっと……」 「はい、時間切れ! いい? ヒーロー三大条件は愛と勇気と力よ!」 「…………」 勇吾は軽やかなマーチと共に赤いマントの小麦粉顔面マンを思い出した。 「ちょっと分かる気がします」 「わかってくれたかしら」 薫は得意げに言った。 「あなたは私達にこのヒーロー三大条件を見せてくれたわ。店員や客を気遣う愛! 我が身をかえりみずに犯人に立ち向かう勇気! そして、悪事を止めて見せた力! あなたには、ヒーローになれる資格があるのよ!」 薫はそう強弁し立ち上がった。薫が勢いよく立ちあがった事によって湯呑が大きく揺れたが、英一がしっかりと止め、哲子がさっとこぼれたお茶をおしぼりで拭いた。 「最近、キメラの侵略の事もあって景気は落ち込み、みんな悲観的な考えばかりをして心も荒み始めている。その分、犯罪も増えて嫌なニュースばかり。こんな時こそ、あなたのような正義の心を持った人が町を守るために必要なのよ! 改めてスカウトするわ。私達と一緒に正義の為に働きましょう!」 そう言ってまたもや勇吾の胸元に向かって指をさした。 どうやら指をさすのが癖のようだ。 「悪いんですけど。正義とか、そういうの俺には合わないので……」 食事をおごって貰って断るのは悪いとは思ったが、キメラに関わる気にはなれなかった。 そんな勇吾にまた薫が何かを言おうとしたが、英一がそれを片手で制した。 「まあまあ、社長。ヒーローはキメラと戦う最前線の仕事です。敬遠するのも無理は無いでしょう。しかし大山くん、失礼ですが」 英一は一拍溜めて、 「大山くんはこの町に職を求めてやってきたのではありませんか?」 「!? どうしてわかったんですか?」 勇吾はまるで探偵のようにズバリと当てられドキリとした。 英一は勇吾の足元にある青いルーズバッグを見る。 「このご時世に、ここらでは見覚えのない青年が大きなスーポーツバッグを持っているので、もしかしたら思いまして」 キメラによる侵略は日本経済に少なからず影響を与えていた。 拠点とされた地域付近は地価が低下し、物理的な被害で流通は妨げられ、株価は軒並み下落、リストラによる従業員解雇も起きている。 侵略に終わりが見えない以上、この不況は慢性的に続くだろう。 「実際に穂俵町に職を求めて来る人は少なくありませんからね。どうでしょう、もし大山くんにヒーローをやっていただけるなら日払い、住み込みの三食手当付きとなっているのですが」 「う……」 英一の言った労働条件は勇吾にとって非常に魅力的だ。持ち合わせがゼロに近い勇吾に決まった場所に泊まるあては無く、今日も公園などで野宿をするつもりだった。 「危険な仕事ですので決断が難しいと思います。そこでどうでしょう、一か月いや一週間だけやってみるというのは。もちろん、お給料は変わらず日当で支払います。いかがですか?」 勇吾の心はグラリと揺れた。 すぐに金が貰えて住む場所が得られる。さらに自分に合わないと分かれば一週間で辞めることも出来る。こんな善良な条件、他には見られなかった。 (それに、あの木下電機のヒーローだからな。以外と危険は無いかも) 勇吾がそう考えていると、英一は懐から電卓を取り出した。 「ちなみに日当ですが、保険等諸々を引いて……このぐらいです」 そう言って計算した電卓を勇吾に見せた。その金額は勇吾の想像をはるかにうわまっていて―― 勇吾は頷くしかなかった。 「いや~。よかったですねぇ社長。新しい隊員が見つかって」 ご機嫌な声を出しながら、哲子は住宅街を歩いている。 「そうね、明日に間に合うことが出来たのは大きいわ。新人なのが不安な所だけど」 薫も哲子に続き長い髪をなびかせながら住宅街を力強く進んでゆく。もちろん勇吾と英一も一緒だ。 勇吾が定食屋で数枚の書類にサインをさせられると、さっそく基地に皆で向かう事になった。 「尾田さん、明日って何かあるんですか?」 勇吾は隣を歩く英一に話しかける。 「明日は重要な任務があります。外せない任務です。準備は万端だったのですが、昨夜にパワードスーツのパイロットが入院することになってしまって……。ちょうど代役を探していた所に大山くんを見つけたのですよ」 「入院って怪我でもしたんですか?」 「いえ、入院といっても任務中の怪我という訳ではありませんから安心してください。ちょっと精神面の病にかかったようで……」 英一が言いづらそうにはにかむ。 勇吾は少し気にはなったが、あまり考えないことにした。それよりもヒーローの基地というものがどんな所かという興味が勝った。 「あとどれくらいで着くんですか?」 少し高揚した気持ちで聞くと、 「ここよ!」 薫が目の前を指差した。 そこには昭和の映画などに出てきそうな古臭い木造モルタルアパートが建っていた。壁には『青空荘』と書かれた木製の看板が懸っている。 「……?」 勇吾は一瞬なんのことか分からなかった。 そんな勇吾なぞお構いなしに薫達はアパートの敷地内に入って行く。慌てて勇吾は後を追った。 「ちょっと待ってくださいよ、社長さん! え、基地ってこれが基地ですか!?」 お世辞にも綺麗とは言えないアパートを見て言った。 すると薫は両手を腰に当てて、 「大山くん、私は公私をキッチリ分けるの。今は勤務中でも任務中でもない、そしてアパートにいる。こういう時は私の事を『大家さん』と呼びなさい」 「……大家さん?」 薫は満足したように頷いた。 「大家さん……という事は。ここが本当に……?」 「ええ、キノシタJST社寮兼EDJ基地の『青空荘』よ!」 薫はアパートを指差し、そう言い放った。 勇吾はそんな薫とボロアパートを目の前にただ呆然と立ち尽くすだけだった。 つづく
by maroyakami
| 2009-01-21 01:55
| 小説
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